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「火の鳥2772」をめぐって ー 
<対談> 手塚治虫 vs 御厨さと美
(司会)マンが少年編集部

スペース・シャーク号よりもオルガの方に印象が残る。

司会  手塚先生の原作を漫画に直す上での苦心談あたりからうかがいたいのですが…

御厨  とにかく緊張感ですよね。子供の頃初めて見たマンガというのは「鉄腕アトム」ですから、とにかく手塚先生ということで(笑)。それはともかくも、やはりキャラクターなんかは僕なりに描かなければ、かえって失礼にあたると思ったし…

手塚  いや、すごくよかった。

御厨  特に“オルガ”なんか先生の絵コンテを見ながら、こんなふうに描けるかななんていうのがあったですよ(笑)。特に“ヒゲオヤジ”とか“ブラックジャック”であの定着したキャラクターというのは、ちょっと。えい、もうやってやれ(笑)。映画ではちゃんとした役割で出てくるのだけれども、3カットくらいしかだせなくてもったいなかった(笑)。

手塚  イート卿が一番似ていたという。

御厨  そうですか。あれは動画的な顔ですからね。先生のデッサンというのは、僕が手塚マンガで育ったせいかもしれないけれども、そんなにちがいないなという気はする。

手塚  そんなことはないよ。やはりアメリカン・スタイルではないですか?

御厨  ただ、僕のはよけいに線が太く入っているだけでね。

手塚  僕がいうアメリカン・スタイルというのは、アメコミのスタイルのことで、僕はどちらかというと「フクちゃん」だものね。「フクちゃん」とか「のらくろ」でしょう。スタイルからいうと。

御厨  いや、そんなでもないです。「シュマリ」とかおとなものを意識して先生が描かれたときというのはすごいですよね。「ムウ」に出てきた政治家の顔なんかアメコミ以上だと思いますよ。顔を見ただけで性格がわかるみたい。恐ろしかったです。

手塚  連続の最終回はまだ見ていないのです(笑)。雑誌にのって一週間くらいで単行本になっちゃた。

御厨  映画にどこかの部分で勝ちたいみたいな気があってね(笑)。僕なりのものにしたいなというものがすごくあるのです。うまくいったかどうかというと、やはり悔いが残る部分というのはいつでもあるもので。
 とにかくいろいろな場面がどんどん出てきちゃうし、エッセンスばかりとってしまうから見せ場ばかりで、そうなるとテクニックの不足みたいなものがどんどん表に出てきちゃうのですね。

手塚  いろいろなメカが出てきますが、ああいうものをパッと主体に出すとわりと今の子供向きではないですかね。

御厨  そうですね。だからメカの法も映画でいえば本当に最初のうちよくわからなくて非常にとまどって、そのとまどいがそのままデザインされちゃったみたいな気がしてくやしいのがいくらでもあるのですよね。およそ百点くらいやったと思うのですが、その中で半分はもう一回やりたいくらいです(笑)。

司会  また使えますよ(笑)。

御厨  自分の作品でまた発展させて使います。とにかくいろいろなものをやったですよね。哺乳びんから調理用のソースを出すやつとか…

手塚  僕がもったいないと思うのは、あれにいちいち合理的な説明が書いてあるでしょう。あれを説明どおりに動かさないのですよ。ただ点描として置いてあるだけで。たとえばちょっとした機械でここからこうなると、ここがこう出て何かが発射されるとかそういうのはただ絵でポンと置いてあると、いちいちそれを説明するには動かさなければならないでしょう。それができないというのは残念だった。

御厨  でも僕としては100%のものを要求されたときに100%のものを作っていたのではちょっともの足りないなというところがあって、200%書いておけばそれなりに何か生かされるのではないかみたいな気があったので、しつこくやってみたのです(笑)。スペース・シャーク号の艦内説明図で長さ2メートル半くらいのを作りましたけどあまりでかすぎてね。それを前にして演出をしていただければと思って作ったんですが。

司会  御厨さんの設定されたのは、主だったところではスペース・シャーク号とか、それから強制キャンプから追ってくる追跡機ですとか、マントル計画に使われた機材とか、そういうようなものですか?

手塚  それだけじゃないですよ。いろんな服装も御厨さんじゃないの?

御厨  何点か使っていただいたかもしれないですけれども。

手塚  大部描いていただいたでしょ?

御厨  5点くらいしかやってないと思いますが。

手塚  宇宙服ですか?

御厨  いえ、普通の人のです。宇宙服だったら3着以上ありますね。

手塚  僕が使ったのは御厨さんのでしょ?

御厨  そうです。

手塚  要するにほとんどみんなそうですよ。

司会  兵器の類もそうですか?

御厨  ええ、そうです。

手塚  それで背景デザインがもとさんで。

御厨  もと氏ともう少し話し合えばよかったなと思っていたのです。デザインのいろんなところで、大きいメカだと背景の方があいちゃったりするし、もと氏とは僕も直接話し合っていないけど、お互いの絵を見ながら段々合わせていったみたいで、だから前半と後半とで少しずつちがいますね。後半でやっと息が合ってきたみたいですね。

手塚  それでスペース・シャーク号の模型もね、あれも本当によく作っていただいて。

御厨  本当はいろいろおもしろいことを考えていたのですよね。あのシャーク号をつるすだけでは動きがちょっとおもしろくないだろうからというので、水槽の中に沈めて、つるしじゃできない動き方ができないかとか。どうせロット・スコープ使うんだったら。時間がなくてできなかったのですけどね。

手塚  もうちょっと大きいとスカラ座の前に飾れたのですけどね。惜しいことをしたですよ。僕はスペース・シャーク号を売り物にしてオモチャだとかいろんなところに売りこんでそれで宣伝しようと思ったのですけれども、できた映画を見ますとスペース・シャーク号よりもオルガの方に印象が残る。スペース・シャークというのは、やっぱりヤマトのようにはパッと印象に残らないんですね。

御厨  今流のデコボコがないですからね。

手塚  それはありますね。つるっとするということがね。

御厨  とんがっているとオモチャにならないですよ。僕はあっこれはオモチャにならないなと最初から思っていたんですけどね(笑)。僕が直線的なものに走るところを少しおさえて、まるい感じというのをもう少し出すとか、その辺ではマンガを描くときにずいぶん迷ったのですよね。

手塚  でも、スペース・シャークは直線的でしょ?

御厨  ええ、あの辺は監督の杉山さんの意向もだいぶあったのですけどね。設計図よりも作っている段階でどんどん変わっちゃうのですよね。どの角度から見ても一応かっこよく作らなきゃいけないし、それで段々と太ってきちゃったんだけれども。

手塚  でもちょうどバランスがよかったですよ。プロポーションもね、非常にすばらしくて、スマートですし、ちょっと太りぎみかなと思ったけれども、結局はそうでもないのですね。動かして見るとちゃんとどっしりと動くし。ですけど、ヤマトみたいに出っぱりがないからメリハリがきかないのですよ。いろいろ鉄砲が出ていますとね、するといろいろ立体的に動かせるのですが、それができないのです。でも、御厨さんに、いっぱいスジ描いていただいて(笑)。ところが基本にはそのスジがあっても出っぱりがないものだから、影がつかない、つるっとしてしまって、特にクローズ・アップになると実にのっぺりしていますよ。これではおもしろくないというので、クローズ・アップのときにはデススターみたいにいっぱいデコボコをつけましてね。

御厨  最初からそれやっておけばよかったかな?

手塚  そうですね。大きい模型だとできたのです。

御厨  なにしろつるすということもあるから。それと人の手によく触れるものだから壊れてはいけないとか、軽くなければいけないとかいろいろなことがありますからね。

手塚  それで一番困ったのは廊下とコンピューター室、あの関係がすごくわかりにくい。実際には廊下のデザインというのは御厨さんがやったのですか?

御厨  ええ、僕がやりました。

手塚  2つか3つあるのですが、どう見てもコンピューター室とつながらないわけです。

御厨 階段状に上がっていくのです。そうしないとコクピットがすごく下の方にあるのです。コンピューター室の直径をとりますとね。下から上がっていく形になっています。階段的に上がっていく。そのために見通しができないのです。

手塚  なるほど、もっともあんまりばっちり描き込むとこんどはいわゆるデタラメを希望しているマンガのファンというのもいましてね、これがおもしろくないというのですね。「マリンエクスプレス」を描いたときにね、「マリンエクスプレス」のデザインというのをバッチリ描いちゃった。どこの部屋からみるとこっちの角度にはそういうものが見えないはずだとか、そこら辺まで全部わかっちゃったのです。そうするとおのずから人物の配置が決まってくるのです。たとえべば、この人物がここまで歩くのに何歩歩かなければならない。すると何歩歩く間のタイミングをはかると、ここからすぐこっちのカットにつなぐのはおかしいから間に3秒入れようとかね、そういうことまで段々理くつがエスカレートしてくるわけです。するともうマンガにならないのです。だからどこかでマンガになるためにアニメになるためにはうそをつかなければならない。

御厨  それはわかります。

手塚  僕は「エイリアン」を見て、あのくらいデタラメなことでもいいと思ったのです。あれは本当にどこがどうなっているのかさっぱりわからない。奇妙な機械ばかりゴチャゴチャやたら置いてあって。

御厨  あれ実際は古道具屋からガラクタをいっぱい買ってきてそのままつけたのですけどね(笑)。

手塚  あれがマンガのおもしろさなのですよ。今度の竹宮さんの「地球へ…」がそうでしょう?

御厨 ミュウの側のはみんな貝殻ですよ。地球側のはわりとかっちりしている。ところで今初めておききすることだと思うのですけれども、リアルにものすごくがっちり仕組みを考えた方がいいのか、それとも形のおもしろさとか、要するに使っておもしろいものにするのか、どっちに比重をかけるか、これがすごく迷ったことです。

最近の若い人はディズニーを喜ばない

手塚  やはりアニメの場合は絵ですから、使っておもしろいとか、見ておもしろいとかの方がいいのではないですか。

御厨  それに気づいたのはずいぶん後なのですよ。最初のうちはもと氏なんかもそうだけれどもリアルにいきたいというのがどんどん先行しちゃっていて。メカデザインの中で、もう白状しちゃおうかなと思うのですが、一つだけいたずらがあるのですよ。先生も気がついておられないと思いますが、射撃場のシーンがあって、その的の形が手塚先生のあの似顔絵をもじってね(笑)、眼鏡のマルと鼻のマル(笑)。

手塚  いたずらといえばね、火の鳥が僕に変身するところがあったのです。坂口尚くんが描いたところでほんの一瞬なんだけれども、僕の顔になっちゃうのですよ。これはいくらなんでも一番重要なところなのに、そんな顔なんか出されたらしらけちゃう(笑)。そこはカットしたのです。カットしたら撮影にまたちゃんとついてる(笑)。

御厨  なんか僕のキャラクターも工事現場で岩に押しつぶされるというものがあったというのですが(笑)。

司会  「火の鳥2772」の雑誌連続を引き受けられたときのお気持ちは?

御厨  メカ設定を自分でやったからこの劇画もなんとか描けるような気がして。他の人だとかえって… やはりまかせたくなかったですね。本当はもっとすごく長い話なのではないですか、「火の鳥2772」は?前半の凝りようで後半まで持って行ったとすると、映画にすると四時間分以上はあるのじゃないかと思いますけどね。

手塚  そうなんですよ。特に階級システムとか管理システムとかそこいら辺はやはりもっと描くべきだったんですよ。すると半村さんの小説みたいになっちゃう(笑)。

御厨  宇宙人のキャラクター・デザインというのは先生ご自身で?

手塚  あれは僕です。

御厨  たいがい劇画風に書き直したのですが、クラックだけが(笑)。

手塚  サイコロをリアルに描いてあった(笑)。

御厨  劇画の方は総計200ページ足らずですけど、描き足りないというか、大変なのですね。映画の二時間分は倍以上の500ページくらい必要な気がします。

司会  今日映画を拝見して、気になった点があって最初訓練センターでゴドーが教官に宇宙人を殺せと命じられたときに殺せなかったですね。涙星に来て今度はガス鳥を追って撃ちますね。

手塚  だけどあれ殺すつもりはないわけ。ところが、たまたま当たっちゃった。本当はあそこでゴドーが「ああ悪いことをした」というようなセリフがあったのですけれど、とっちゃった。

司会  ああ、そうですか。だからずいぶん変わったなと思って。

御厨  それよりもむしろレナの心変わりが… 伏線として前に何かあればいいのだけれども、レナって最初はすごくやさしいですよね。やはり先生がフェミニストといわれているところなのだと思うのですけれども(笑)。それにしては後にすごい豹変するのですよね。

手塚  いやー、ああいうのもいますよ(笑)。

御厨  映画の方だとレナの出てくるチャンスも少ないですから、金持ちの美しい女、自分が美しいことも知っていて、階級差というものをあたりまえのように思っていてその上でやさしい女にしようというような感じでした。

手塚  結局、インサイダーなのですよね。つまり、あの頃は一種の反抗期でね、オヤジが結婚しろといったら一応いやだといって浮気をしてみるのですよね。ところがあるところをすぎると親のいうことをきかなければいけないというのに気がついちゃう。

御厨  海岸でゴドーと車の中でひっくりかえって、あの時点で、行きところのない恋なんてやっぱりやだみたいな感じでね。ひょこっとそこいら辺でもう豹変させちゃうのだという感じ。一番かわいそうなのはオルガですね。あの話のなかでは。

手塚  でも最後は幸せになる。

御厨  でもうちのアシスタントたちが「オルガ殺すのですか?いやだな」(笑)。オルガはゴドーの命を何回助けたかなって数えてみると、あっすごいなって(笑)。オルガがいなかったらゴドーは何回死んでいるかわからない。

手塚  アニメというのは二時間たっぷり見せても、やはり雑誌にするとね。雑誌見るスピードと映画を見るスピードはちょっとちがうから、縮めてみると案外ドラマが単調なのですね、アニメというのはね。ドラマを複雑にすればするほど今度はアニメとしてつまらなくなってくる。けれどやはりアニメは劇画が入らないちだめだと思いましたね。最近若い人たちがあんまりディズニーを喜ばないという意味がわかってきた。つまりリアリティーがないのね。僕の絵はアニメにするとせいぜいTVアニメどまりで劇場ではやはりリアルな劇画の方がいいのかもしれない。ギャグものは別ですけどね。「タブチくん」なんていうのは劇画にするとおかしいですね。

司会 私は全然知識がないので映画を見た範囲でなのですけれど、シャーク号はじかに地面についているのですが、胴体が?

御厨  僕は台車をつけてくださいといったのですけど。僕が劇画に描いたのはちゃんと台車をつけておいたのです。要するに、格納庫に置いてある状態では反重力装置が作動していないから、どてっと置いてあるだけでしょう。その場合には台車が滑走する車輪のかわりをする。そして、切り離してしまえばいいわけですね。後は反重力装置が常に動いているから、もう着陸するときには浮かんでいるわけです。ただ、車輪を入れる場所がどこにもない。あらゆるスペースを考えてみたのですけど。あの重量を支えるとなるとえらい装置がいる。

手塚  だから車輪でおさえるときには常に反重力装置が動いて軽くする。

御厨  それだったらいっそずっとかかったままにしたらどうか(笑)。そういうことも考える。

手塚  それはエネルギーのムダ使いですよ。

御厨  エネルギーの問題もなんとかでっちあげて、これは永久的に運動する機関であるというふうに作ったのです。

手塚  そうしたら太陽エネルギーを使わなくてもいいわけですね(笑)。

御厨  それも考えたのですよ。結局、そのエンジンを始動するために使うエネルギーがものすごい莫大な量。

手塚  そのかわり始動しちゃうと永久に。

御厨  ええ、だからいくつも同時に動かすことはできない、というふうなことをでっちあげて(笑)。非常に貴重な乗り物なはずなのですよね、あれは。

手塚  考えてみたら科学センターの中になければいけないんだ。それがなんでキャンプの中にあるのかそれがわからない。

御厨  僕のでっちあげだと、マントル対流をいくらか取り出しているわけですね。エネルギーの充填には一番いいところで、基地がすぐそばにあると、そういう気持ちで作ったのです。

手塚  それにしたらあんなキャンプの中にかくしておくのは危険じゃないですか?

御厨  ええ、僕の気持ちではキャンプとかなり離してあるのですが、同じ谷間にあるのですが。非常にこっちも苦労して(笑)。

スペース・シャーク号に乗るのは名誉…

司会  スペース・シャーク号のコンピューターはゴドーの肉声に反応するようになっているのですか?ゴドーの命令だけを聞くような形に?

御厨  でもないみたいですよ。

手塚  プログラムを入れるのがゴドーだったら、プログラムを入れた本人の声でしょうね。

御厨  だが、サルタ博士が「火の鳥がもどってくるぞ」とかいって、ちゃんと作動しているのですよね。火の鳥が追いかけてくるなんていって、それをサルタに伝えるみたいなところがあるし。だからあまり考えなくてもいいんじゃないかと。

手塚  すると、ロックの「このシャーク号はおまえしか動かせない」ということばがね。スペース・シャークに乗るということはよっぽど名誉なのですよね。名誉だしエリートなんですよ。大体スペース・シャーク号の存在すら一般の人間はしらないのではないかと思うのです。

御厨  労働キャンプの存在そのものもあまり市民は知らないですよね。

手塚  いや漠然と知っているのではないですか。

御厨  でも場所はわからなかったです。

手塚  場所はわからないですね。

御厨  たしかアイスランドの。ピンチョがロックがしゃべっているのをきいて初めて場所がわかった。

手塚  マントル対流の爆発というか、ああいうパニックがおきるものがどうか小松左京さんにきいたわけ。そうしたらそれはおきる可能性があるというのですね。それで安心して、科学考証・小松左京というのですけどね(笑)。それがキーだものね。

御厨  なるほど。

手塚  ちょうどアイスランドから南極にかけて大西洋のまん中に溝が走っていて、その溝がマントルのエネルギーが常に放出されている。それでどんどん大陸を移動させていく。だから最後にそこを部裂させるとそのひびは南極まで通じちゃう。

御厨  小松さんはたしか四年くらい前にアイスランドに行かれて…

手塚  そうなのですよ。だから、きいたわけ。あそこはそういうエネルギーの採取には一番いいだろうと。だけど見ている人にはアイスランドがどこかわからないけどね。

御厨  それどころか首都がどこにあるのかよくわからないですよ(笑)。

手塚  あれはそもそもロサンジェルスが舞台だった。だけど場所の説明に何分も使うというのは(笑)。

御厨  ところで、オルガのエンジンは何なのでしょうかね?

手塚  ああれはだから反重力のエネルギーではないのですか(笑)。オルガは成層圏でも飛んでいる。だからジェット・エンジンではない。「アトム」をTV化するのだが、単なるジェット噴射でどうのこうのということじゃ今の子供はだめなわけですよ。やはり省エネルギーの時代だからロケット・エネルギーにしても普段のものはあまり使えないですからね。

御厨  排ガス規制もあるし(笑)。

手塚 今度の場合、「火の鳥」というものの存在の説明がむずかしくてね。地球人には鳥に見えるけれども宇宙人には別のものに見える。実際に鳥がいろんなものに変身するのだけれども、それは人間の脳細胞を刺激して幻覚をおもさせているだけで実体はだれにもわからないわけです。そういいうエネルギー体にしちゃった。結局、ほうき星、彗星ですね。あれが宇宙エネルギーの実体であると。つまり、ほうき星の中には一種のコスモゾーンの集合体みたいなのがあって、今、太陽を巡ってハレー彗星ちかいろいろな彗星が回っているでしょう。あれはつまり太陽にとられた一種のコスモゾーンで、これがたまたま地球の軌道とぶつかって地球に吸いとられていって地球に生命体を発生させたというような設定にしたかったわけですよ。もっとSF的な発想をいっぱい出したかったのですがね。あまり出すとお客が来ないのですね。

「火の鳥」は最終的には子供にはわからないだろうな

御厨  「火の鳥」のむずかしさというのは、子供もある程度わかるし、大人もわかる。だけど同時に子供にはわからない部分があるし、大人にもわからないような部分というのが混在しているのですよね。

手塚  子供はわからなくてもいいのじゃないですか。

御厨  ええ、子供には最終的にはわからないだろうなと思って、ただオルガはいいとか、そうやって見てくれればいい。

手塚  そうそう。

御厨  僕は本当はもっとブラックジャックを描きたかった。

手塚  ブラックジャックとゴドーの対決のところは長い。あれはよく動いていましたね。

司会  あれは同時期に「あしたのジョー」が封切られるというのですごく悪評だった(笑)。

御厨  実際ロット・スコープで俳優さんが演技なさったところですか?

手塚  あれは使ったところと使わないところがあるみたにですね。僕Aパートの方はよくわからないのです。僕も実写の部分は見たのですが、動きがあまりないのですよね。かなりムード的なものがあって僕としてはあまりあれは成功しなかったと思います。

御厨  最初は絵コンテを見てえがいたのですが、途中からやめたのです。どうしても引きずられる。

手塚  後半は見ていないのですか?

御厨  ええ、シナリオだけで。どうしても描きたいシーンがポンポン出てきちゃうような気がして。例の決闘シーン、あれだってページ数の関係で切っちゃった。

手塚  分数からいうと一分くらいですね。

御厨  一分で10ページもある(笑)。

手塚  御厨さんの「火の鳥2772」を見て、映画に来ない人というのはいるでしょう。そういうのは困るのですよね(笑)。少なくとも御厨さんのファンはこれで満足しちゃうわけですよ。手塚の「火の鳥2772」は見たくない。僕が一回御厨さん風に描いてみましょうか?ああいうリアルなぴしーっとしたのをね。どんなものですかね。

御厨  先生はコマ取りが段々細かくなったような気がするよね。昔はもっとすごく大きな絵があったような気がします。景色がいっぱい入っていたですよね。

手塚  それをやると手を抜いたといわれるのですよ。僕の読者というのはこわくてね。ちょっと大コマを使うとおもしろくなくなったとか、もっと話を進めろとかね。

御厨  僕はどちらかというと実写やりたい方なのです。実写の監督をやってみたい。脚本から何から全部、現場で俳優さんの演出までやるというのをやってみたい。

手塚  ものはSFですか?

御厨  そうではないです。SFになってしまうとどうしても特撮がいっぱい出てきますよね。特撮で見せるというと日本では無理だと思う、お金の面で。やはりやるならちゃちでないものをやりたいし。

手塚  アメリカでいいSFを作るのにお金をかけないで作っているでしょう。

御厨  アメリカだと仕事の区分がちゃんと守れるような感じがするのです。一つ一つの職分等のシステム作りがうまいですよね。日本の場合だとシステム作りがタテなのだかヨコなのだかわりとあいまいな感じになっちゃって、だれが力のある人だけがえらく負担を受けて、こっちの人はその人におまかせしてというような気がするのです。

手塚  今度のシステムは細分化しすぎましたね。

御厨  設定にはに二種類あると思うのですよね。いわれたものを着実に作るのと、発想を助けるためにいろいろな材料を並べるのと、二段がまえの仕事だと思うのです。

手塚  片一方はデザイン・メーカーでしょう。片一方はいわゆる技術設定ですよね。

御厨  ただこれは一緒の仕事だと思うのです。同時にやっていなければいけない。たとえば、ここはヘリコプターの音がほしいからヘリコプターを出してというふうにしてヘリコプターを作ると、ローターのブンブンいう音を出したいためにローターものを作ると、あれはこれはといって宇宙船のようになってしまって…(笑)。車がひっくり返ってローターだけどこかに行っちゃって(笑)。ブルンブルンいう音がない。こういうときにここのところはこうでこうという臨機応変にやれる人が先生のかわりにいてほしいということですね。

手塚  僕はメカは弱いですからね。とてもどこがどうなっているかわからない。でも21世紀の終わりだからね。あんまり現実に近いものでない方がいいんじゃないかという気がするのですね。

御厨  でも末端では責任のなすり合いが始まるのです。おまえのデザインが悪いと(笑)。

手塚 デザインは悪くはないのですけどね、描きにくいのですよ(笑)。


(マンガ少年別冊火の鳥2772愛のコスモゾーン 原作 手塚治虫、作画 御厨さと美 朝日ソノラマ1980、198-202頁)

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