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シナリオ 2

36. アイスランド・労働キャンプ

 キャンプを覆う、低くたれ込めた密雲の中から、轟音が響き、巨大な輸送機が姿をあらわし、キャンプの飛行場に着陸する。

37. 労働キャンプ

 輸送機からおろされ、引き渡されるゴドー。
 護送係、書類をブーンに手渡しながら。
護送係「本日の護送一名。元宇宙ハンター、ゴドー・シンゴを引き渡します」
 書類を受け取り、片手でパッと開くと、横目で流し読みしながら、ピーナッツをしきりに口に放り込むブーン。
ブーン「ほう… 色恋沙汰でキャンプ送りか、女ったらしめ… 第一級反逆者? 市民権剥奪? どういうこったい? 何をしたか知らねえが、ここにくりや、一日で忘れちまうから安心しな。苦しさのあまりな。(パチンと書類を片手でとじ、首でうながす) ついて釆い」
 ブーンのあとについて行くゴドー。

 赤く、そして暗い光に満たされた、洞窟のような部屋に降りてくるエレベーター。
 ドアが開くと、ブーンとゴドーが出てくる。
ブーン「所長、新入りです」
 暗い室内にグロテスクな装置がつき出ている。所長の背後の壁は赤く光り、所長は逆光でよく見えない。
 ほとんどシルエットのブラック・ジャックが、ゆっくり机の向こうから出てくる。天井からの赤いスポットで、顔の片面がぼうっと照らし出される。
 ゆっくり近づいて、いきなりゴドーのアゴを乱暴につかんで、顔を横むかせる。
ブラック・ジャック「こんなキズは… ここではケガのうちに入らん。そのうちにケガをするより、いっそ死んだぼうが、楽だと思うようになる。ここの暮らしはそんなとこだ。ブーン、規則を教えてやれ!」
ブーン「かしこまりました (ゴドーに近づいて肩をつかみ) さあ、きさまの小屋へ行くんだ」
 二人去る。
 ブラック・ジャック、机の上に書類を広げて読んでいる。
ブラック・ジャック「元老院議長の娘にちょっかいを出しただと? ブッ (かすかに笑う) 世間知らずめ」
 エレベーターの中。ブーンが壁によりかかって、ピーナッツを口に放り込みながら。
ブーン「規則の3、脱走を試みた者は即座に射殺される。規則の4、作業中許可なく持ち場はなれた者は…」
 ぐんぐんと落下してゆくエレベーター。

38. 労働キャンプ・谷底の作業場

ブーン(off)「厳重処罰される。規則の5…」
 湧きあがる熱泥がふっとうしている。赤い光に包まれた断層の底。蒸気があちこちからのぼり、作業員がうごめいている。まさに、地獄である。青鬼、赤鬼のように作業員たちを監視している警備ロボット。
 働く作業員たち。
 作動する工事用機械。
 リフトの列。
 巨大なメカがリフトのパケットを次々受け入れ、パイプを通じて中身を送り出している。
 次々地上に送られるエネルギー。
 一日の作業を終えて帰途につく作業員たち。赤い光に長い影を落として行進する。
 モノレールの車両にギュー詰めにされ、疲れはてて貧しい住まいに戻って行く。
 機械的に給食され、強制的に寝かされる。
 消燈時間、次々に建物の明かりが消える。

39. 労働キャンプ・工事現場

 ガタガタとやってくるショベルカー。ゴドーが運転している。
 と、崖の上が崩れて巨岩が落ちてくる。崖下で働いている作業員たち、逃げそびれて立ちすくんでいる。
ゴドー「危ない」
 人々におおいかぶさるように落ちてくる岩と土砂。
 一瞬、のまれる人々。その上にさらに落ちてくる岩。大岩。
 ショベルカーの運転席から、飛び降りたゴドーが岩の下敷になった作業員を助けようと、走り寄る。
 と、警備ロボットがさえぎる。
ロボット「持チ場ヲ、ハナレテハイケナイ」
ゴドー「そこで人が下敷になっているんだぞ!」
ロボット「持チ場ヲ、ハナレルナ」
ゴドー「どけ、このやろう!」
 強引に行こうとするゴドーを、ロボットがつかみ上げ、投げとばす。地面にしたたか叩きつけられ、よろよろと立ち上がろうとするゴドー、うつぶせにバッタリ倒れる。

40. 労働キャンプ・夜

 勢いよく入り口のドアを開けてサルタが入ってくる。
サルタ「ここに、他人を肋けようとして、ロボットに投げとばされたバカがいるそうだが、そいつはどいつだ」
 二段ベッドに腰かけたり、仲間うちでゲームをしたりしている囚人たちが、いっせいにサルタのほうを見る。
 傷だらけのゴドーがベッドの上に身を起こす。
ゴドー「ぼくのことかい」
サルタ「おまえか、そのバカというのは! ここじゃ、そんな精神じゃ生きのびられんぞ!」
囚人A「おい、サルタのじいさん、よけいなお世話だぜ」
サルタ「(ふり返って) うるさい! (ゴドーに)わしがここでの暮らしぶりをとっくり教えてやる。ついてこい」
 宿舎からゴドーを連れ出そうとするサルタを押しとどめようとする警備隊員。
警備隊員「博士、それは困ります」
サルタ「わしが仕込んでやるんだ。ブーンの了解はとってある」
 と、そのままゴドーを連れて行ってしまう。

41. サルタの住居・夜

 用がなくなって打ち捨てられていた建物に住みついているサルタ。サルタの住居の窓から明かりがもれて、サルタのシルエットが見える。
 テーブルの上にリンゴをのせた皿を置くサルタ。
サルタ「食え、食ってみろ。毒じゃない」
 ゴドー、リンゴを手にとって。
ゴドー「なんですか、これは…」
サルタ「食えったら」
 おそるおそるかじるゴドー。味わってみる。けげんな顔。(ウグッ、うまいという感じで) くらいつく。
 噛み砕いて飲み込み、むしゃぶりつく。
 サルタ、こんどは皿にキノコをのせて差し出す。
サルタ「こいつの香りをかいでみんか… これも食いものだ」
 ゴドー、キノコをつまみあげて匂いをかぎ。
ゴドー「アーッ、すてきだ」
 感に堪えないという表情。
サルタ「どうだ、昔はそういう珍味がいくらでも手に入ったもんだが、いまじや、幻の食いものだ。元老院の連中だけが口にできる。もっと食わせてやるから、わしの部下になれ」
 キノコを口に放り込んで噛みしめていたゴドー、ギョッとなって。
ゴドー「部下?」
サルタ「そして、わしを連れてここを逃げるんだ」
ゴドー「なに!」
 ゴドー、思わず身をのりだして手で机をひっぱたく。
 サルタ、ゴドーに顔を寄せて。
サルタ「何も、そう驚かんでもええ、おまえがわしを連れて、この労働キャンプから脱走するんだ」
ゴドー「ま、まってください。だしぬけに、何を… 第一、オレは、あなたがいったいだれなのか」
サルタ「わしの名はサルタ博士。おまえさんと同じ、ここの囚人じゃよ。ただし、少しは融通がきく立場だがな」
ゴドー「だけど、脱走はムリだ!」
サルタ「シーッ… 大声出すな! 聞かれたら水のアワだ。おまえさん、宇宙のパイロットだろう。それで、頼みたいんだ。このキャンプに宇宙船が一台ある。(キャメラ、フラッシュパンして、格納庫) あすこじや。(フラッシュパン。窓から外を見ているサルタとゴドー) あれを奪って、地球から逃げ出すんだ」
ゴドー「地球から? なぜ?」
サルタ「にぶいヤツだな、おまえさんは。世界中どこヘ逃げれば安全だ? どこにかくれたって、結局捕まって、またここヘ逆戻りだ。宇宙ヘ亡命すれば… (サルタ、戸棚に近づいてびんをとり、盃に酒を注いで) 捕まりっこないわい。おまえさんとわしのために乾杯」
 鼻をつまんで持ち上げ、口の中に酒を流しこむサルタ。
ゴドー「ぼくはいやです!」
サルタ「ブォッ」
 と、酒を吹く。
ゴドー「ぼくは、レナを捨ててはいかない! どうしてもレナと、もう一度会うんです」
サルタ「おまえってヤツは、大バカのお人好しだ。だいたい、あんな女…」
 いきなりバタン! とドアが開き、ブーンが入って来る。
ブーン「時間ですぜ博士!」
サルタ「わ、わかった… もう話は終わったよ」
ブーン「なんの話をしたんです」
ゴドー「…」
ブーン「なんの話をしたと聞いているんだ」
 バチーン! ブーン、いきなりゴドーの頬げたを平手ではる。
サルタ「女の話じゃ、こいつまだ未練があるんじゃ」
ブーン「博士、今日また大規模な、脱走計画があった。あんまり里心を刺激するような話は、さけてもらいましょう。このやろう、どうも逃げ出しそうなツラだ!」
ブーン「さ、小屋へ帰れ」
 ゴドーをせきたてて出て行くブーン。
 見送るサルタ。

42. 元老院クラブハウス・教会

 ロックとレナの結婚式である。
 荘厳にして華麗なパイプオルガンの響き渡る会堂の中央を、しずしずと進むロックとレナ。花嫁衣裳のレナ、心なしか沈んでいる。
 見守る参列者たち。すべてエリート階級に属する連中である。
 と、パイプオルガンの高い筒の列の陰から顔をのぞかせるオルガとピンチョ。
オルガ「これは、何?」
ピンチョ「地球人の結婚式だよ。昔はだれでもしたそうだよ。でも今は、偉い人間しかしないんだそうだ。でも、これは悪い結婚式だ。
 レナはあの男愛してない、でも結婚する。レナは裏切ったんだ。オレの星では、愛のない結婚なんかしない。オレ、レナきらいだ。この結婚式、インチキだ。ワーッ」
 興奮してパイプオルガンの筒の上で、わめいていたピンチョが、筒の中に落ち込んでしまう。
ピンチョ「ウワー、ギャー」
 パイプオルガン、急に調子の狂った音を出しはじめ、おまけに、かすかにピンチョの悲鳴が、うがいの音のように聞こえる。
 いっせいにパイプオルガンのほうを見る参列者たち、そしてロック、レナ。
ロック「ゴドーの育児ロボットだ」
 オルガ、ピンチョを救い出そうとして、パイプオルガンのパイプをヘし曲げ、引き抜いて、ピンチョの姿を捜している。
ロック「捕まえろ」
 オルガが引き抜いて持ち上げたパイプの中から、ピンチョが転がり出る。
ロック「あすこだ! 早く捕まえろ」
 ピンチョ、ほうきをだしてパイプを二、三度はたいて、滑り落ち、床まで転げ落ちて、鉄砲玉のように逃げ出すが、柱にぶつかってひっくり返り、向きをかえて矢のようにフレームアウト。
 オルガ、パイプオルガンの上から宙を飛んで、高窓をブチ破り、外ヘ。
 玄関に出てくるロック。玄関先には部下たちが張っていたのだ。
部下「ゴドーが操っているのではないですが?」
ロック「バカ、ゴドーはとっくにアイスランドの労働キャンプだ」
部下「じゃあ、ロボットが自分の意志で、いやがらせを?」
 庭園の植え込みに隠れているオルガ。上半身をつっ込んで、お尻が出ている。
 しのんでやって釆たピンチョ、オルガのお尻を見つけると、ほうきではたく。ビクッととび上がるオルガ。
ピンチョ「ゴドーのいどころ、わかった。アイスランドのキャンプだ」
 オルガ、喜びを顔に浮かべ。
オルガ「オルガ、ゴドーのところヘ行く! オルガ、いつもゴドーといっしょ! ピンチョ、足につかまって! 行くわよ」
 オルガ、ジェット機に変身。飛び上がる。
 飛ぶオルガジェット機。つかまっているピンチョ。
 ほうきを出して、翼を払うが、風圧でほうきをもぎとられてしまう。
 はるか、雲のかなたに落ちてゆくぼうき。
 あわてて、うしろを見ようとしたピンチョの胸のタルから、次々にほうきがとび出して、はるかに飛び去ってゆく。
 撫然としているピンチョ。
 飛んで行くオルガジェット機。
 眼下に広がる雲海。かなたにアイスランドの大地溝帯が見えてくる。
 そのあたり、厚い雲に覆われている。

44. 労働キャンプ・作業場

 ブルドーザーを運転しているゴドー。
 前方に一群の作業員たちがいて、なにやら騒いでいる。通行の邪魔になるので、ゴドーが運転席から降りて。
ゴドー「どうした、そこをどいてくれ」
 中の一人が何かいう。
ゴドー「えっ? キレツ?」
 見ると、地面に大きな割れ目ができて、作業員たちは、そのまわりにたかっていたのだ。
ゴドー「いつ、でき…」
 その時、ゴーッという音とともに、激しい震動がおこる。
作業員A「また地震だーっ」
作業員B「気をつけろーっ」
作業員C「でかいぞーっ」
作業員D「ワァーッ」
 亀裂、大きくなって、ふちが崩れていく。作業員たち、転がり、よろけながら逃げて行く。崩れ広がる地割れ。
 ゴドーの足元にも、亀裂が広がり、断層ができ、向こう側の地面が押し上げられて段差ができる。ブルドーザー、断層の間にはまりこんで、紙のように押し潰されてゆく。
 驚いているゴドー。ふと見ると、変電所の上方の岩壁がゆっくり崩れはじめる。
 ハッとするゴドー。
ゴドー「危ない、電源を切れーっ」
 崩れ落ちてくる岩と砂ぼこり。
ゴドー「電源を切れってんだ」
 ゴドー、走って変電所の窓から中ヘ飛び込む。
 変電所の配電盤室に走り込んだゴドー、メインスイッチ五つばかりを切る。
 高圧線の鉄柱に土砂が襲いかかり、柱が倒れて高圧線が切れ、火花が散る。
 大岩のひとつが、高圧の熱泥パイプを直撃、太いパイプがヘし折れ、中から熱泥が噴出する。さらに別のパイプもその衝撃で取り付けのところからはずれ、熱泥が噴出しはじめる。
 激しい震動で、変電所の床に叩きつけられるゴドー。
 あたりに熱泥があふれ、作業員たちをのみこみ、変電所めがけて伸し寄せてくる。
 ゴドー、あわてて起き上がり、壁に取り付けてあるハシゴを登る。ゴドーが一段目のテラスまで達した時、泥流が配電盤をのみこみ激しいショートが起こる。
 さらに上に逃れるべくハシゴを登るゴドー。と、天井から鋼材が落下して、ゴドーの登っているハシゴの上部を切断してしまう。
 支持点を失ったハシゴに、ゴドーがつかまったまま、ゆっくり倒れはじめる。
 蒸気を噴いて煮えたち、うずまく泥流の上に倒れこんでいくハシゴ、ゴドー。そして。
 と、天井の破れからオルガジェット機が飛び込んできて、間一髪、今まさに熟泥の中に放り出されようとしていたゴドーをさらう。
 泥流の中に落ち込むハシゴ。
 ゴドーはオルガに抱えられて、天井の穴を抜けて空ヘ。
 オルガ、空中で大きく旋回して、崖の上ヘ逆噴射でゆっくりと着地する。

45. サルタの住居・夜

 暗い部屋のソファに腰かけているゴドー、ピンチョ、そしてオルガ。
 窓の外一帯は、火の照り返しでぼうっと赤くゆらめいている。
ゴドー「オルガ… よく来てくれたねえ…」
オルガ「ピンチョ、ゴドーのいるところ、教えてくれたの」
ピンチョ「オレ、ピンチョ、留学生だよ。あんたのことオルガから聞いたよ。あんた好きさ」
 と、タルからほうきを出して、ゴドーの体をはたく。
 地震が起こる。
 ピンチョ、慌てて、サッとテーブルの下ヘ、隠れて、おそるおそる窓の外を見る。
 ゴドーもオルガも外を見る。
 窓の外、パーッと赤く光り、煙が立つ。
 チカッ、チカッと天井のライトがまたたきちゃんとついて、明るくなる。見ると、部屋の片隅でサルタがスイッチをひねっているのだ。
サルタ「この騒ぎの中だから、よかったものの、おまえたち監視塔から狙われて、集中射撃浴びておるところだぞ」
 サルタ、ゆっくりソファに腰かけ、体をもたれさせる。ピンチョ、窓のところヘはねていって、外をのぞく。
サルタ「あのことを考えておいてくれたかね」
ゴドー「脱走のことですが」
サルタ「そうじゃ、ここはもう長くはもたんぞ」
 震動が起こる。サルタ悠然としている。ゴドーはハッとなる。ピンチョ、慌ててうずくまる。と、ライトが消えかかる。ピンチョ、オルガにしがみつく。
サルタ「いや、ここだけじゃない。地球もダメになる」
ゴドー「えっ… どうして…」
サルタ「おまえが知らんのも無理はないがな…」
 サルタ、立ち上がって、ゆっくりと歩き出す。
サルタ「地球は… ほろびつつあるんだ」
ゴドー「地球が! …まさか」
サルタ「惑星としての生命力を失いつつあるんだ」
 サルタ、入り口のドアのところヘ釆て、ちょっと開け、外の様子をうかがうようにして、また閉める。
サルタ「これは宇宙科学者グループみんなの結論だ」
ゴドー「信じられません」
サルタ「地球は、まともならもっと長くもつはずじゃった… それを、人間が自然のバランスを狂わしてしまったのだ。やたらに資源をとりすぎたり… 自然をむやみに変えてしもうたり… 結局は人間の自業自得じゃよ。ここでやっとる"マントル対流エネルギー"の開発計画もな、どうせ、失敗なんじゃ」
 ゴドーの傍に腰をおろすサルタ。
ゴドー「無駄なんですか?」
サルタ「無駄なことは、わかるじゃろう! 地球の自然の節理をひっかきまわして、狂わせるだけじゃ! 地震がやたら起きるのも、その証拠だ。エネルギー源としての開発だけじゃなく、地球に活力を与えるカンフル剤として、マントルに刺激を与え、(ピンチョ、やってきて、おそるおそるほうきでサルタを払うが、だんだん大胆になってくる) マグマの活動を活発化しようというんじゃが… これは大変に危険なカケなんだ。(ピンチョ、ついにサルタの鼻をはたく、とたんにサルタに片手で放り投げられてしまう) わしは、その危険性の重大さを知って、ロック長官に、この計画をとりやめるように忠告したんだが… あの小僧め、取り上げなかった。(また地震、机や椅子がギシギシと揺れ、ライトが二、三回暗くなる) しかも、おまえさん同様、わしをこのキャンプヘ押し込めよった」
 突然立ち上がり、ゆっくり歩き出すサルタ。
ゴドー「サルタ博士、ほかに地球を救う方法はないんですが?」
 これを聞いてサルタ、立ち上がってニヤリと笑う。くるりと振り向いて。
サルタ「おまえさんはたしか、元老院の命令で火の鳥とやらを捕まえに行くというとったな」
ゴドー「そうです」
 サルタ、つかつかとゴドーに近づいて、指でゴドーの胸を押す。よろけるゴドー。
サルタ「それが、方法のひとつだ」
ゴドー「火の鳥ですが?」
 さっと、スイッチ盤のところヘ行くサルタ。
サルタ「キミはフェニックスという鳥のことを聞いたことがあるかね?」
ゴドー「子どものころ…」
 サルタがスイッチを押すと、天井からホログラフが出て火の鳥がうつる。
サルタ「フェニックス、不死鳥、ロシアでは大地から生まれた、火の鳥。中国では不老不死の鳥とされ、鳳風と呼ばれて、蓬来山という極楽の山に棲むといい、(鳥の映像がかわる) ヨーロッパでは、ある時期がくると、この鳥は自分の体を (ホログラフの光の束がしだいに大きくなり、火の鳥の映像が飛びまわる) 火で焼き、(鳥の足元から、突然炎に包まれる) その中から新しい若鳥が生まれ変わると信じて (0・Lして火に包まれながら踊る鳥のシルエット、しだいにシルエット消えて、火だけになり、おどり狂う火) 不死鳥と名づけられた」
ゴドー「おとぎ話じゃ、ありませんか」
 ホログラフ、火の玉がとび散り、爆発と光の中に若鳥があらわれる。
サルタ「まあ聞け、そのフェニックス、すなわち火の鳥じゃが… (ホログラフ、細くなって消え、あたりが明るくなり、ホログラフに寄って見守っていたゴドーが立ち上がる) ほんとの鳥じゃない。エネルギー体だといわれとる。(ゴドー、さがってソファに座る) しかも、宇宙生命のすベてに、関わっとるらしい。なぜなら、その火の鳥がしばらく棲みついた星で、死にかけていた生命が蘇って、星が生まれ変わったという例もあるそうだ」
ゴドー「とても信じられません」
サルタ「元老院が、おまえに火の鳥をとってこいというたのは、生き血が欲しいからだ」
ゴドー「生き血ですって!」
サルタ「それに生命エネルギーの秘密が含まれとるのだ!」
 突然、地鳴りがして震動。明かりが消えて、真っ暗になり、窓の外だけ異様に明るく、赤い光。その中に浮かぶサルタのシルエット。さかんに叫んでいる。
サルタ「それを元老院の連中は一人占めにしようというのだ! わしは… わしは… 自分で生さ血を手に入れて、分析したい! そして、このキャンプの人間たちや… 世界中の人間たちや… いや! 世界全部の生さものに、それをわけてやりたいんだ!」
 窓の外の光。強烈に射し込んでくる。その光に照らされながらサルタ、叫んでいる。
 サルタ、ゴドーの手をにぎって、
サルタ「ゴドー、頼む! わしを火の鳥のところへ連れて行ってくれ! どうかわしに力をかしてくれ!」
ゴドー「わかりました」
サルタ「承知してくれるか! ありがたい!」
 その間にキャメラ、窓の外に見える格納庫に向けてT・U。
ゴドー「ロケットはあそこでしたね」
サルタ「まちがいない」

46. 格納庫・深夜

 警傭ロボットの影が大きく、扉にのびている。崖をくり抜いた通路に、ジルエットが現われる。ゴドー、オルガ、サルタ、そしてピンチョ。
サルタ「ウーム、思ったより警戒がきびしいぞ。見張りがおる」
 格納庫の扉の前を行ったり来たりしている警傭ロボット。
サルタ「どうするかね、宇宙ハンター君?」
ゴドー「そうですね。強行突破という手もありますが、ご老体がいては、ちょっと…」
サルタ「こやつ…」
ピンチョ「ピンチョ、考えがある」
 格納庫の前のロボットたち、行ったり来たりを続けている。
 突然、笛の音が聞こえてくる。
 ふと、振り返るロボットの一体。
 笛の音がますます高まり、警備ロボットたちキョロキョロし、音のする方角に向かって走りはじめる。
 通路の下の崖の中腹に、ひもをかけてぶら下がったピンチョが笛を吹いている。
 上から覗き込む、二体の警備ロボット。背後からそっとオルガがしのび寄り、さっと二体のロボットを突き落とす。
 谷底に落ちて行く警備ロボット二体。つり下げたひもに腰かけていたピンチョ、喜んだ拍子に滑り落ち、首になわをかけて辛うじてぶら下がる。  格納庫の入り口に走って行く、オルガ、サルタ、ゴドー。オルガ、力まかせに大きな扉をこじ開ける。開いた隙き間から格納庫の中に入るオルガ、ゴドー。続いてサルタも入ろうとするが腹がひっかかって入れない。無理に入ろうとするサルタ。
 外からピンチョがサルタの尻をほうさでくすぐる。
サルタ「ワ〜ワ〜ア」
 スポンと抜けて中に入るサルタ。
 格納庫の中、巨大なスペース・ジヤークが置いてある。
サルタ「あった! これじゃ」
ゴドー「スペース・シャークだ!」
 突然、声がする。
「そのとおり!(ブラック・ジャックの声)、エサにつられてやって釆たな!」
 あたりがボーッと明るくなる。
ブラック・ジャック「新前パイロットどの」
 驚くゴドー。左右の壁ぎわのテラスにずらりと並んで銃をかまえている警備ロボットたち。
ブラック・ジャック「サルタ博士。あなたも諦めのわるい人だ。ここから出られないことは、百も承知のくせに」
サルタ「頼む、所長。わしがやろうとしておることは、人類や地球全体を救うためだ」
ブラック・ジャック「あなたがどういうわけをお持ちだろうと、私は与えられた任務を果たすだけが、仕事でね」
 オルガ、左右を見上げ、とびかかろうと身構える。
ブラック・ジャック「そのロボットを鎮めてくれんかね。ゴドー君」
ゴドー「やめろよ、オルガ!」
 オルガ、はっとなり、しおれる。
 せまるブラック・ジャック。
ブラック・ジャック「さあ、サルタ博士。この連中と素直に、もとの宿舎ヘ戻っていただきましようか」
 サルタ、思わず顔をおおってうなだれる。
サルタ「ウウウ… なんということだ!」
ゴドー「所長! あんたは情けということを知らないのか!」
ブラック・ジャック「でかい口をきくな。おまえなどに宇宙ヘ出てゆく勇気があるのか!」
ゴドー「だまれーッ! あんたこそなんだ! ロボットにずらっと守られて、空威張りしているキツネじゃないか!」
ブラック・ジャック「ほう、怒ったな? じゃあ、おまえを試してやろう」
ゴドー「試す?」
ブラック・ジャック「レーザーガンや、冷凍光線を扱うのにゃ馴れていても、肝心の体力があるかどうか、あやしいもんだ。おれがテストしてやる。もし、おまえが勝ったら… 言い分を (上衣を脱ぎながら) 聞いてやるぜ」
 と、いうが早いか、サッと脱いだ上衣をゴドーに投げつけ、こぶしをにぎって、ボディに一発食らわせる。続けてアッパー。
 どっとあお向けに倒れるゴドー。上半身を起こして頭をふる。
ブラック・ジャック「(パンチを片手に当てながら) だが、もし、おまえが負ければ、このキャンプで一番苦しい作業場ヘ送りこんで、のたうちまわらせてやる。ロボットども銃をしまえ」
 銃をしまうロボットたち。
ブラック・ジャック「オレが命令するまで、手を出すな!」
 ゆっくりと立ち上がるゴドー。
ブラック・ジャック「さあ来な、青二才」
 指でまねくブラック・ジャックにゴドーのこぶしが飛ぶ。さっ、さっとよけるブラック・ジャック。隙を見て、ブラック・ジャック、ヒジでゴドーの腹を突き、両手を組み、頭上にヒジ鉄を食らわせ、やりすごして、尻をけとばす。バッタリと倒れるゴドー。
 顔に手を当てるサルタ。
ブラック・ジャック「立て、へッポコ」
 ふるえながら、起き上がろうとし、いきなり一回転してとび起き、ブラック・ジャックに組みつく。
 勢いあまって壁にぶっつかる二人。ブラック・ジャックを連打するゴドー。ブラック・ジャックさすがにグロッキーとなる。ゴドーの右ストレート、左ヒジ打ち。が、突如、反撃に出るブラック・ジャック、右ストレート。よろけるゴドー。追っかけてブラック・ジャックの左ストレート。右ストレート。左アッパー。
 ゴドー、一瞬身を沈めてブラック・ジャックを転がす。よろよろと立ち上がるブラック・ジャック。ゴドーの右ストレートをやりすごして、右アッパーをきめ、続けて左ボディ、右ストレート、左パンチ、右パンチ、ボディ連打、とどめの右パンチ。
 オルガにしがみつくピンチョ。
 連打されるゴドー。戦意を失ったようにフラフラしている。突然、ブラック・ジャックのパンチをかわし、右手をあげ、空手チョップを食らわせる。よろめくブラック・ジャック、そのままドラムカンの山に突っ込み、ドラムカン崩れ落ちる。
 ドラムカンを押しのけて立ち上がったブラック・ジャック、ゆっくりゴド一にせまり、やにわに飛びげりをかけ、きめ、続けて空手チョップ、まわしげり、すっとんで激しく壁にぶつかるゴドー。そのまま腰を落とす。
 ブラック・ジャックが近寄ってきて立ちはだかり、足でゴドーの肩を押す。グニャリと倒れてあおむけになるゴドー。と、ゴドー、いきなりブラック・ジャックの足をつかみ手刀を叩きつける。
ブラック・ジャック「ワァーッ!!」
 ブラック・ジャックのボディに当て身。
 寄りかかり合う二人。ゆっくりくずれ落ちるブラック・ジャック。
サルタ「やった!」
 手を打って喜ぶサルタ。
 のびているブラック・ジャック。
 ゴドー、ストンと腰を落として壁に寄りかかり、息をついている。
ゴドー「ハア…、ハア…、ハア…、ハア…」
 ピンチョ、ブラック・ジャックの足をとび越えてゴドーの前ヘ。ほうきでゴドーを払う。
ゴドー「博士! スペース・シャークヘ」
 サルタはスペース・シャークヘ。オルガはゴドーのところヘ駆け寄る。
 オルガ、ゴドーを助け起こし、抱えてスペース・シャークヘ。一行スペース・シャークヘ乗り込む。
 倒れているブラック・ジャック、チラッと目をあけて、このありさまを見て、心もちほほえむ。
 スペース・シャークのコックピット。サルタがナビゲーターシート、ゴドーがパイロットシートについて、スイッチ類を点検し、エンジンを始動する。
 スペース・シャーク浮上。ゆっくりと前進し、扉にせまり、熱線砲を発射して、扉をとかし、そのまま機首を突っ込み、ぶち破って外ヘ出る。  崖っぷちの滑走路上をすべるように進むスペース・シャーク、そのまま空中に浮く。
 サイレンが鳴りわたり、サーチライトまばゆく走りはじめる。ゆっくり飛ぶスペース・シャーク。上昇して行くスペース・シャークに下からレーザー砲の攻撃。ぐんぐん高度をあげてゆくスペース・シャーク。谷間を抜けだしたところで、メインエンジンに点火。一気に急上昇して、たれこめた密雲の中ヘ突っ込んで行く。

47. キャンプ上空・夜明け前

 ぐんぐん上昇を続けるスペース・シャーク。
 密雲を突き抜け、雲海の上に出る。雲の中から追いすがる二機の追撃戦闘機。
 スピードを増すスペース・シャーク。追う追撃戦闘機。
 スペース・シャークのコックピットで、急激な加速に耐えているゴドーとサルタ。
 テレビスクリーンに追撃戦闘機が二機うつる。追撃機からの声が入ってくる。
「クリ返ス。タダチニ降伏シ、引キ返セ。サモナケレバ、撃墜スル」
サルタ「くそったれめ!」
 追撃機、スペース・シャークを射程に入れ、機銃を発射する。スペース・シャークをかすめてとぶ銃弾。フィンをかする。ハッとするゴドー。コックピットのテレビスクリーンにブーンの顔がうつる。
ブーン「サルタ博士!おれだ、頼む引き返してくれ、あなたを殺したくない!」
サルタ「ブーン」
ゴドー「博士、戦いましょう。まかせてください」
サルタ「待て、あれはブーンだ。ブーンは悪人ではない。職務に忠実なだけだ。彼は殺せん」
ゴドー「そんなことをいっていたら、こっちがやられる」
サルタ「ブーン、頼む、見逃してくれ!」
ブーン「気持はわかる、先生。だがオレの立場としてそれはできん。一分猶予を与えよう。一分たって聞き入れなければ、やむを得ん。撃墜する」 ゴドー「今逃げなければ、我々は破滅です」
 がっくりとするサルタ。ゴドー、ハッと思いついて。
ゴドー「オルガ、どうだひとつ、あいつを驚かせてやらないか!」
オルガ「あいつって、だれ、ゴドー」
ゴドー「追手の戦闘機さ。銃座をこわして来てほしいんだ」
オルガ「わかった、ゴドー。まかせて」
 オルガ、ハッチから外ヘ出て、空中に飛び出し、シェット機に変身、追撃戦闘機に向けて飛んで行く。
ブーン「なんだ、あれは?」
 オルガ、戦闘機に接近し、その背後にまわり機体にとりつく。
パイロット「超小型機、ありゃ、どこ?」
 機体をはって行くオルガ。
 コックピットの背後に顔を出して、からかう。
パイロット「あっ、女であります」
ブーン「女が乗っているのか」
パイロット「いえ、女そのものです」
 ブーン、急いで振り返って見るが、すでにオルガは引っ込んでしまっている。
ブーン「なに?」
 オルガ、機体の下部を伝って、機首に出、機銃にとりっいて曲げはじめる。
ブーン「なんだ、あの女は!」
 オルガ、機首にまたがって、機銃を叩き曲げている。
ブーン「やめろ!…ウワ! やめろーっ」
 機銃を叩くリズムで、オルガのお尻が微妙に動く。
ブーン「エベベベ… やめろ… エベベへ…」
 ヤニさがっているブーン。
パイロット「隊長! あれはロボットです!」
ブーン「ウッヒッヒッヒッ、そうか… ンッ、ボヤボヤするな、早く払いのけろ」
 オルガ、ブーンの搭乗機の機銃を曲げ終わると、はずみをつけてジャンプして、機体をはなれ、空中を一回転して飛んで、もう一機の戦闘機にとりつく。
 尾翼を支点に一回転したオルガ、機首にまわり、機銃の銃身をつかんで、ねじ曲げる。
パイロットA「ウワーッ、バイオニック・シエミーだ」
 オルガ、銃身を銃座から引き千切ってまるめ、さかさまにさしこんで、千切った部分を広げ、ラッパ状にしてしまう。
パイロットA「撃て! 撃っんだ!」
パイロットB「撃てって、どうやって撃っんです?」
 コックピットの前にかがんだオルガが、バイバイと手を振る。パイロットA、つられて反射的にバイバイする。
 オルガ、シェット機に変身して飛び去る。
パイロットA「オレ、二日酔かなア…」
 スペース・シャークに戻るオルガ。
ブーン「所長に報告、機銃をやられて、追いつめることができません!」
 キャンプの所長室で、テレビを見ているブラック・シャック。
ブラック・シャック「逃がしてやれ (あわれむように) ゴドー、火の鳥をみごと捕まえてこいよフフフ…」
 ぐんぐん地球から遠ざかるスペース・シャーク。月も遠ざかる。
 スペース・シャークのコックピット。
ゴドー「いったん地球ヘ戻ろう」
サルタ「なんだって? なんのためじゃ?」
ゴドー「元老院のイート卿のうちから、レナを連れ出す」
サルタ「ん?!」
ピンチョ「レナ、結婚したよ」
 通路に立ったピンチョがポツリというと、ゴドーが振り返って。
ゴドー「なにっ」
ピンチョ「レナ、ロックと結婚した」
 ゴドー、シートから立ち上がり、フラフラとピンチョの前ヘ。
ゴドー「も、もう一度いってみろっ!」
ピンチョ「ピンチョ、オルガと見てた。レナ、元老院の教会で式あげた」
 ゴドー、かがみこんでピンチョの肩をつかみ、揺さぶる。
ゴドー「うそだ! うそをつけ!…」
ピンチョ「ゴドー、レナは諦めたほうがいいよ。ピンチョの国じゃあ、結婚した女と、掃き捨てたゴミは、締めろって、諺あるんだ (ゆっくり目をつぶり、ゆっくりあける)」
ゴドー「そんな… そんなバ力な! そんな…」
 手を額にあてて嘆くゴドー。
ゴドー「レナがロックと?! (どっと床に身を投げて) そんなーっ (床を叩いて泣く) ワーッ」
 そんなゴドーをじっと身守るピンチョ。

48. ヒゲオヤジの宇宙生物センターの前の空地

 二匹の怪獣がすさまじい勢いで、格闘している。
 そのまわりに、奇怪な、あるいは滑稽な宇宙生物たちがとり囲み、ある者ははやしたて、あるものはおろおろしている。
 そんな事宙生物たちをかきわけて、一人の地球人が姿を現わす、ヒゲオヤジである。
バン「こらーっ、てめえら、何度いったらわかるんだ。いいかげんにしろ、顔合わせりゃ角突きあいやがって」
 争う二匹の間に割って入るヒゲオヤジ。
バン「やめろってのがわからねえのか、おいっ!」
 ようやく二匹を引きはなすヒゲオヤジ。傍の宇宙人に。
バン「おいっ、そいつを捕まえてろ」
 と、一方を取り押さえながらもうー方を抱きかかえて、柵の中ヘ入れる。
バン「まったく手のやけるヤツだ」
 もう一方の宇宙生物を、別の柵の中ヘ押し込むヒゲオヤジ。
 そこヘ、サルタとゴドーが姿を現わす。
サルタ「バン、大丈夫か!」
バン「何が?」
サルタ「何かあったんじゃないのか」
バン「いや、ベつに、しかし、よく来たなサルタ。宇宙船が着陸したので、だれか来たとは思ったが、おまえとはな」
サルタ「なにか騒動が持ち上がっていたようだが…」
バン「ああ、いつものことでね。あのアルタイル系恐龍と、タクトス系多角獣はどういうわけか仲が悪くてね、相性が悪いっていうのか、しよっちゅうなんだ。気にするこたあねえんだ」
サルタ「そうか、それならいいんだが、ああ、紹介しよう、この若者は、ゴドーといってな宇宙ハンターだ」
バン「宇宙ハンター… 気にいらねえな」
サルタ「ま、待て、宇宙ハンターといってもゴドーは別だ。こいつは虫一匹殺せねえ宇宙人ハンターでね、そのためにお払い箱になったのさ」
バン「そうかい、若いの、おれはバンてえんだ。サルタとは古い付き合いでね。まあ、よろしく頼まあ」
サルタ「ところで、バン。わざわざおまえのところへきたのも、よんどころない頼み事があっての事だ」
バン「わかってるよ。用件はなんだかしらんが、もの好きでこんな星までサルタともあろうもんが、のこのこでかけてくることもあんめえからな。ま、話はなかで聞こうじゃねえか、たいしたもてなしはできねえが、一緒にきてくれ。(見物している宇宙生物たちに) おいっ、見世物じゃねえ、行っちまえ」
 ヒゲオヤジ、二人を案内して建物のほうへ向かう。

49. 宇宙生物センター・ヒゲオヤジの居間

バン「火の鳥… いるよ」
サルタ、ゴドー「えっ!」
バン「着陸のときに見たろうが、この島の中央は火山地帯になっていて、ゴルニア高原っていうんだが、そこにいけば、いくらもいるぜ」 サルタ「ほ、ほんとうか!?」
バン「ほんとうさ、ヨタじゃねえ、ヤツらほんとに火の鳥さね。しょっちゅうケツから火を吹いてやがる。どうやら体の中から発散するガスが発火しているらしい」
サルタ「よし、とにかく調べてみよう。そいつが本物の火の鳥だとすると、大助かりだ」

50. 涙星ゴルニァ高原

 ガス鳥がいっさんに、チョコマカと逃げている。カニのようなハンターカーがそのあとを追う。ハンターカーには、ゴドー、オルガ、ピンチョ、そしてバンが乗っている。
バン「あいつらは、煮ても焼いても食えねえ代物なんだ…」
 逃げるガス鳥。ハンターカーの腕、スルスルと伸びてガス鳥をつかもうとするが、ガス鳥、ヒョイヒョイと頭をかわす。くやしがるゴドー。今度は肢をはさもうとするが、ガス鳥、飛び上がってよける。
 とうとう逃げおおせるガス鳥。
 走っているガス鳥のお尻の噴射がしだいに弱まる。鳥、立ち上がって首をのばし、キョロキョロ。石油の他にやって来て頭を突つ込んで油を吸いはじめる。池ではほかにも何匹かのガス鳥が石油を吸っている。
 せまってくるハンターカー。ガス鳥たちまちに頭をあげ、いっせいに逃げ出す。
 ハンターカー、そのあとを追って、石油の池に突つ込み、走り抜ける。
 逃げるガス鳥たち。
 追うハンターカー。
 ゴドー、ハンターカーの上に立ち上がってピストルをかまえ、片目をつぶって狙いをつける。一瞬、火を吐くピストル。命中。
 と、鳥は爆発。ボワッと煙が上がり、焼け焦げた鳥が、ゆっくりと倒れる。
 走り寄るハンターカー。ゴドー、オルガ、ピンチョ、身を乗り出してガス鳥の焼け焦げた死体を見る。
ゴドー「あいつらを止める方法はないんですが!」
バン「火を消すほかないな」
ゴドー「よし、はさみうちにしよう。オルガ、きみは右からいけ」
オルガ「わかりました」
 オルガ、車から飛び出すと、車に変身、その車にとび乗るピンチョ。走り出す。
ゴドー「海ヘ追い込むんだ」
 走っているオルガの車。
 乗っているピンチョ、ハンドルをほうきではらう。
オルガ「いや、ヘんなところをなでちゃあ」
 逃げるガス鳥の群。
 追うハンターカー。
 オルガの車が、ガス鳥の群を上手に追い込んでいく。
ゴドー「よーし、いいぞ、海へ追い込め」
 向こうに海が見えてくる。いっせいに海へ向かうガス鳥たち。
 走るガス鳥、追うオルガ。
 ガス鳥たち、どんどん海に入って行く。
 オルガの車も海へ走り込む。ピンチョがコントロールバーを押すと、オルガ水上艇にかわる。水上艇に乗って、海上をゆくピンチョ。
 ハンターカーも海の中ヘガス鳥を追い込む。
 沖に向かうガス鳥たち。水が深くなり、火が消えて、黒い煙がでる。
 もがきながら沈むヤツ、ひっくりかえってもがくヤツもいる。
 浮き沈みしているガス鳥たち。
 オルガの水上艇、Uターンして戻る。

51. ヒゲオヤジの住居・居間

 台の上にガス鳥が置かれ、ゴドーとサルタが、その体のあちこちを調ベている。
ゴドー「この鳥には血がないぞ」
サルタ「なんだと?」
ゴドー「体の中は、まるっきりワタクズみたいなもんがつまってるだけだ」
サルタ「ひゃあ、火の鳥じゃないっちゅうのか!」
ゴドー「そうらしい、無駄骨でしたね」
サルタ「いまいましい」
 と、あたりにとびまわるハエを、いらいらと手をって追いまわし、鼻先にきたところを力まかせに叩く。ハエは逃げ、サルタ、ゲンコツで自分の鼻を叩き潰す。
 ソファに腰をおろして、このありさまを見ているヒゲオヤジ。
バン「おまえさんたちの捜している火の鳥ってのは、2772ってヤツのことかい」
サルタ「そうだ」
バン「な〜んでい、そんならそうと早くいやあいいものを… (手を打って、モグに) おい、プークスはどこだ」
 モグ、モグラ叩きをやっている。
モグ「牧場にいるよ」
 ヒゲオヤジ、ソファから立ち上がる。
バン「2772についちゃ、くわしいヤツがいるんだ。あわせてやろう」
 ワイプ。
 山合を登ってくる、カニ型ハンターカー。
 ヒゲオヤジ、サルタ、ゴドー、ピンチョ、そしてオルガが乗っている。
 左右に体を振って歩くハンターカー。
バン「2772てのは、宇宙船まで襲うっていう怪物だろ、ありゃ鳥じゃねえよ」
サルタ「じゃ、なんなのだね」
バン「さあ (ハンターカーの揺れに調子を合わせながら) ここにいる連中の噂じゃあ、どうも生きもんじゃねえらしいってことさ」
サルタ「生さものじゃないだと?」
バン「ここだけの話だが、他の銀河系の種族の使っている超兵器かもしれねえぜ」
サルタ「そんなバカな…」
バン「とにかく、あの牧場にいるプークスって宇宙人が、2772の棲処を知ってるんだ」
 峠に着くハンターカー。眼下に広大な牧場が広がり、そちらに群れている動物の姿。

52. 涙星の牧場

 アザラシのような、ナメクジのようなものが群れている。
 音楽に合わせて踊っているナメクジたち。
 大きいのやら、小さいのやら、子どももいる。一匹のナメクジの頭でクラックが笛を吹いている。
 笛に合わせて踊るナメクジたち。クラックは、笛であちこちのナメクジを叩いて拍子をとる。
 と、バランスを崩し、サイコロになって、地上に転げ落ちる。
 憤然としているクラック。
バン「ヘイ、クラック」
 ハンターカーの上からヒゲオヤジが地ベたに転がっているクラックに呼びかける。
クラック「ハイ! じいさん、なんか用か」
 ヒゲオヤジ、バッとハンターカーからとび降りる。
バン「この客人がプークスにあいたいとさ」
 クラック、殻の下面の穴がら支柱を出してぐーっと持ち上がり、ハンターカーの上の、サルタやゴドーと同じ高さになる。
クラック「プークスはオレのダチ公だ。あんた、ヤツの国の言葉しゃベれるかい?」
サルタ「いいや」
クラック「ほんじゃだめだ。なにしろ、ヤツの言葉を翻訳できるのは、オレだけだからな」
ゴドー「ぼくはゴドーという宇宙ハンター、この人はサルタ博士だ (ハンターカーからとび降りて) じつは、宇宙の怪物の居場所を捜してる。星や宇宙船を焼さつくす怪物だ。プークスが見たことあるそうだ」
クラック「ゲームをしねえか? (二ヤリとするクラック) あんたが勝ったらプークスを呼んでやらあ、だけどオレが勝ったら十万円払いな。いいか… 奇数か偶数かい?」
ゴドー「なんだって…?」
クラック「奇数か偶数かって聞いてんだ!」
ゴドー「き、奇数」
クラック「よかろう」
 クラック、サッと支柱をひっこめ、サイコロになって転がる。
 5の目がでる。
 二か所から首を出すクラック。
クラック「ちぇっ、オレの負けか。仕方がねえ」
 クラック、首をひっこめると、笛を突き出す。
 SE、ボ〜〜ッ。
 丘の向こうからプークスが、体をゆすりながらやってくる。
プークス「ブーッ、ブッ、ブッ、ブッ」
クラック「こいつがプークス。オレ牧童のクラックよ」
プークス「ブーッ、ブッ」
クラック「ごきげんよろしゅう、だとよ」
サルタ「所変われば品変わるちゅうが… バグパイプ人間に、サイコロ人間とはな」
 クラック、へソの穴から角をつき出して怒る。
クラック「サイコロ人間たあなんだ! オレの一番いやな差別語をつかいやがったな。抜け! 決闘だ!」
サルタ「待ってくれ、わかった。あやまるよ。もう二度といわん。ちかう」
 手をあげてちかうサルタ。
クラック「わかりゃいいんだ。わかりゃ… ところでなんの話だっけ」
バン「プークスに、この人たちを怪物のところヘ、案内してくれと頼みてえんだ」
クラック「翻訳料をよこしな、前払い」
 ヒジオヤジ、クラックの殻の側面の穴にコインを入れる。
 SE、チーン。
 と、前面の穴から紙っペらがでてくる。
クラック「ホイ、レシート。さてと… このだんな方を、怪物のところヘ案内しろ。だっけな (急に向きなおって) なにーっ!」

 スペース・シャーク。
 宇宙人たちが大きな荷物を、スペース・シャークの中に運び込んでいる。
 荷物のチェックをしているヒゲオヤジ。
バン「じゃ、プークス、頼んだぞ。 クラック、おまえもな」
クラック「へッ! なんでオレがわざわざ行かなけりゃならねえんだ。怪物をつかまえに行く? あんたら大タワケだ。プークスが行くのは勝手だが、オレァご免だぜ。いくら通訳のために行けったって、断じていやだ。関係ねえもんな」
 歩き去ろうとして、クラック、サルタにぶつかり、ひっくりかえる。
サルタ「だが、きみはどうしても必要なんじゃ」
クラック「へン、どうしても行けってのか、そんならこっちにも、条件があるぜ」
サルタ「わかっとる」
 山のように積んであるカプセル。
サルタ「きみのために、苛性ソーダのカプセルを十ダース用意した。きみは苛性ソーダのフロに、しょっちゅう入っているんじゃろう?」

52A. 出発しようとしているスペース・シャーク号

 みんな出発準備に大わらわ。
バン「じゃ、サルタ、気をつけてな。ところで、この麻酔銃と、磁力網をやろう。きっと役に立つはずだ。くどいようだが、これだけはいっておきたい。決して殺すな、われわれ地球人は、すでに宇宙生物を殺しすぎている。もう十分だ。それと2772のことだが、クラックの話だと、これは伝説でしかないが、たったひとつだけ弱点があるそうだ。そこをつくと、手も足も出なくなるのだというが」
クラック「そうよ、げんにその弱点を偶然ついたために、命拾いした宇宙人がいるんだ」
サルタ「それは、なんなのかね」
クラック「そいつは、具体的にはわからねえ全くのナゾさ。でも、ウソじゃねえ」
サルタ「そうか。弱点がね。(傍のゴドーに) ゴドー、おまえはどう思うね。その弱点というのについて…」
>ゴドー「オレにはわかりませんね。とにかく殺さずに捕まえるってことが第一じゃないですが」
サルタ「バン、いろいろと面倒をかけて、すまなかった」
バン「いいってことよ」
サルタ「じゃ、行くぜ。おまえも達者でな」
バン「おまえこそ、気をつけろ。若いの、ゴドーだっけな。サルタのことよろしく頼むぜ」
 ハッチを閉ざし、スペース・シャーク号が発進する。
 みるみる遠ざかるスペース・シャーク号。見送っているヒゲオヤジと宇宙人たち。
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